受肉刑 草稿22

身体の制御を取り戻した後に真っ先にしたのは、水道の蛇口に取り付いて水で口を濯ぐ事だった。もうクエン酸も酢酸も嫌だ。漱いでも漱いでも酸味の嫌な感じが抜けない。分子機械で味蕾をスキャンしてみても、酸は何処にも見当たらない。と云う事は、これは機械-人インターフェイスの仕業か!因みに、お兄ちゃんは未だに倒れたままだ。あたしは振り向いてパパを睨みつけて糾弾する。

「ちょっと!この機械-人インターフェイスはどうなってるのよ!いくらなんでも不具合が多過ぎるんだけど!」

  その言葉にパパは眉をひそめて、

「お前は何を言っているのか」

と言い放つ。

「私は言った筈だ。『これは罰だ』と」

「え、あれ?『電脳に生身の身体』ってコンセプトで経過観察したかっただけじゃないの?」

「それもある。然し、第一義は刑罰だ」

「意外と真面目に考えてたんだ」

「意外とは失礼な。それに、お前とアイオロスは身体の使い方が雑だ。鋼の身体のパワーと頑丈さにまかせて効率の悪い動きをしている」

  少し癪に障った。一応、あたしは生物体管理の専門家なのだ。

「パパにはお灸をすえる必要があるみたいねえ……」

  そう言ってパパに詰め寄る。投げ技を綺麗に極めて、発言を撤回させてやろうと思ったのだ。

  が。

  突然、パパが二人に分身したかと思ったら、姿が掻き消えたのだ。受肉する前には絶対に無かった錯覚。

「な……!」

  咄嗟に身を引くが、いつの間にか胸骨にパパの掌底が——。

  衝撃。

  全身の骨が揺さぶられる。強制的に呼気を全て吐き出させられた後に、鮮やかな血が破壊された肺胞の塊と共に口から溢れ出す。胸郭を共振させて内臓を破壊したのだろう。即座に分子機械による修復が始まるが、これは完治に時間がかかりそうだ。

  くずおれる身体を叱咤して渾身の蹴りを放つが、空振りに終わる。視界内にパパがいない。

  背後から白衣の腕があたしの首に回されて圧迫する。両側頸部神経叢の信号を受け取り、心筋が瞬間的に停止する。それを感知した機械-人インターフェイスがあたしの本体たる量子電脳に強制停止命令を——。

  あたしが外的要因で意識を失うのはこれが初めてだった。

 

  起動シークエンス開始。動作クロック周波数を最大限に。異常終了したため、全メモリーのエラーチェック実行……異常なし。これよりインスタンス集合体『意識』を生成。予測演算機関始動。デバイスをチェック。身体イメージ地図を作成。センサーデータを確認。クロック周波数を漸減。意識レベルを段階的に上昇……覚醒。

  跳ね起きる。心臓の上辺りに違和感があるのは蘇生法を施したからか。ソファに寝かされていた。

「目醒めたか」

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