受肉刑 草稿20

リビングに入ると、レアお姉ちゃんが甘ったるそうなお菓子を山程用意してくれていた。ミルフィーユ、モンブラン、カスタードプディング、アイスクリーム、果てはみたらし団子まで在る。後は緯度も旬も無視した多様な果物も。我が家の分子合成機械をフル回転させてるんじゃないだろうか。
「お帰りなさい。カール伯父さんは元気だった?」
  怪我をして(直ぐに治したけど)帰って来た妹への第一声がそれですかお姉様。
「あたしの心配は?」
「え?だってお父さんが『あいつなら大丈夫だ。お前は心配しなくてもいい』って」
  貴女は人を信じ過ぎです。パパも過保護だ。いくらお姉ちゃんが中世欧州の御婦人並みに気が弱いからって。
  まあいい、話題を切り替えよう。
「それよりも、この大量の甘味は一体何?」
「お父さんが『糖分が足りなくなってから帰って来るだろうから』って。本格的なお菓子作りが出来て嬉しいわ」
「何?素材は兎も角、お姉ちゃんが全部作ったっての?」
「ええ、腕によりを掛けました。召し上がれ」
   素直に感心した。初めて台所に立った時には、包丁を指に接触させて仕舞ったショックで世界を壊しかけたくらいなのに。成長したものだ。
「じゃ、遠慮なく」
   ソファに座って、手近のクッキーを手に取る。そう言えばこの身体、好き嫌いはどうなんだろうか?機械の身体だった頃は何でも食べられた。生身になってから食べた朝食は特に問題無く美味しかった。お菓子も大丈夫だろう。余り悩む事も無く口にクッキーを放り込んで咀嚼する。
   のろまなお兄ちゃんが家に辿り着いたのは、あたしが焼き菓子に飽きて果物に転向しようと思いかけたところだった。
「ただいま」
   疲労困憊した声だった。グレープフルーツを半分に分割しながら、声をかけた。
「お帰んなさい。低血糖アラートがガンガン鳴ってるでしょ。食べる?」
   お兄ちゃんはあたしを恨みがましく睨みつけて。
「……お前は生身に慣れてない俺にあわせようとは思わなかったのか」
「あたしがお兄ちゃん相手にそんな事する訳ないでしょ。はいどうぞ」
   有無を言わせず、スプーンとグレープフルーツ半分を押し付ける。
「そういう奴だったな、お前は……」
   嘆きながらもお兄ちゃんは果肉を掬って口に運ぶ。

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