受肉刑 草稿18

「ふん」

「あー、飛行ユニット仕舞い込んじゃって、どう云うつもり?」

   そう、兄は手っ取り早い移動手段を分解して大気に還してしまったのだ。あたしの詰問にお兄ちゃんは更に陰気な相貌で。

「さっき、ブラックアウトしかけた」

   重力加速度の急激な増大によって脳血流量が減少し、視界が暗くなる現象である。電脳なんだからそれは無いだろう、と思ったが、あの妙な機械-人体インターフェイス(と其の開発者であるパパ)の事だから、血液の状態に応じて「本体」の処理に介入するような機能があってもおかしくは無い……のかも知れない。まあ、それはそれとして。

「お兄様ったら本当は私のこと心配で心配で堪らなくて、限界を超えた速度で」

「単にいつも通りに飛んだら人体が耐えられなかっただけだ、……って其の口調は止めろというのに」

「じゃあ、帰りはゆっくり飛べば良いじゃない」

「俺に運ばせるつもりか。お前は何をそんなに急いでるんだ?」

「さっきから低血糖エラーが五月蠅くて仕様が無いのよ!」

「素直で宜しい」

「じゃ、乗せて?」

「何がどう『じゃ』なんだ。お前は論理回路を全部チェックした方がいい」

「ちぇ~」

「代わりに、一緒に歩いて帰ってやるから」

「そっちの方が意味不明じゃない!」

 

  漸く、歩けるまでに回復した。血糖値のアラートは、仕方ないのでアドレナリンを増産してやり過ごした。

「しかし、お前も無茶をしたものだと思う」

   恐る恐る足を運びながら、お兄ちゃんが言う。

「何が?」

「生身で戦闘兵器相手に立ち回り、更に伯父貴を罠に掛けたじゃないか」

「勝算があったからよ。生体制御はあたしの専門なんだから。お兄様相手の方が余程絶望的でしたわよん」

   無数の火の玉に、無制限に降り注ぐ雷撃。全方向から襲い掛かる鋼線。浮遊するフレネルレンズによる集光ビーム攻撃。極め付きは、どこから持ってきたのか反物質兵器。以上、先日の兄妹喧嘩でお兄ちゃんが使用した兵器だ。計算リソースの殆どを予測演算と回避運動に割り当てて、何とか一対一に持ち込んだ。あれに比べれば、今回の戦闘などスポーツの範疇だ。

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